初診の予約時や、通院中の患者さんからの質問で、「~~すると認知症になりますか?」「〜〜は認知症の予防に役に立ちますか?」というようなことを尋ねる患者さんが多くおられます。
以下のとおり、現時点でのまとめを、作りましたので参考にしてください。
1. 確実に有効と考えられる認知症対策
エビデンスの質が高く、各種ガイドラインでも強く推奨されている介入策です。
特にアルツハイマー型認知症および血管性認知症のリスク低減に寄与するものが多く、一次予防(発症予防)と二次予防(軽度認知障害や早期認知症での進行抑制)の両面で有効と考えられています。
生活習慣・リスク因子の改善
身体的な活動(定期的な運動): 身体活動量が高い人ほど認知症リスクが低いことは多数の観察研究で示され、ランダム化比較試験(RCT)でも有酸素運動を中心とした運動介入は高齢者の認知機能をわずかながら改善・維持する効果が報告されています。
例えばWHOは「身体活動を行うことで認知機能低下リスクの低減につながる」とのエビデンスに基づき、中高年者への定期的運動を強く推奨しています。有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳など)による効果が特に示唆されており、週150分以上の中等度の運動が推奨基準です。
運動介入は認知症発症そのものを防ぐ明確な証拠は十分でないものの、軽度認知障害(MCI)や正常高齢者で情報処理速度や遂行機能など特定の認知領域を改善する中等度のエビデンスがあり、転倒予防や心血管健康にも資することから総合的に推奨されています。
例えばフィンランドのFINGER試験(多領域介入RCT)では、食事・運動・認知トレーニング等を組み合わせた介入群が2年間で認知機能全般の成績をプラセボ群より有意に向上させました。運動はその重要構成要素でした。このように運動習慣の維持増進は認知症予防の柱とされています。
■とにかく運動は良いみたいです!!細かいことは気にせず散歩でも筋トレでも何でも良いのでちょっとでも運動を増やしましょう!!!■
血圧管理(高血圧の治療): 中年期の高血圧はアルツハイマー型認知症および血管性認知症双方の独立したリスク因子です。降圧療法による認知症予防効果も近年確立されつつあります。特に積極的な血圧管理の有用性を示した研究として、SPRINT MIND試験があります。SPRINT MINDでは収縮期血圧目標を120mmHg未満(強化群)に下げた群で、標準治療群(目標140mmHg未満)と比べ、有意に軽度認知障害(MCI)の発生率が低下し(ハザード比0.81, 95%信頼区間0.69–0.95)、MCIと認知症を合わせた複合アウトカムも有意に減少しました。観察期間中、認知症発症そのもののリスク低下効果は統計学的有意に至らなかったものの(18か月時点で認知症発症率は強化群7.2‰/年 vs 標準群8.6‰/年, p=0.10)、降圧介入の短期間での中止や観察期間の限界が影響した可能性があります。降圧療法全般の効果を統合解析した2020年のJAMAメタ分析では、降圧薬による血圧低下介入は、プラセボや高値放置と比較して有意に全般認知症または軽度認知障害の発生リスクを低減しました(OR 0.93, 95%CI 0.88–0.98)。すなわち約4年間の追跡で、降圧治療群7.0% vs 対照群7.5%と絶対リスク差0.39%の予防効果が示されています。特に血管性認知症の予防効果は明確であり、アルツハイマー型への影響も示唆されています。
なお「どの降圧薬が最も有効か」については完全な結論はないものの、エビデンスからレニン・アンジオテンシン系阻害薬 (RAS阻害薬) が注目されています。複数のコホート研究解析によれば、アンジオテンシン受容体ブロッカー (ARB) 服用者はACE阻害薬や他の降圧薬に比べアルツハイマー型認知症の発症率が低いとの報告があります。例えば韓国の60歳以上対象大規模研究では、ARB使用群でAD発症ハザード比0.94 (95%CI 0.90–0.99)と低下し、特に血液脳関門通過性の高いARBを長期使用した場合にリスクが有意に低減しました(4年以上使用時のHR ~0.83) 。ACE阻害薬では有意な効果が見られず、ARB特有の神経保護作用(AT1受容体遮断による神経炎症抑制やAT2受容体刺激による保護効果など)が示唆されています。以上より、中年期からの高血圧予防・治療は最も確立された認知症予防策の一つであり、特にARB系薬剤は有望ですが、実臨床では患者個別の適応に応じ全ての降圧薬で十分な血圧管理を行うことが重要です。
加えて、すでに軽度の認知障害がある場合でも厳格な降圧で認知機能低下の進行を抑えられる可能性があり(SPRINT MIND結果より)、血圧130/80mmHg未満を目安とした管理が推奨されます。
■まあ、とにかく高血圧は治療しましょう、と要約しておきます。
難しいごちゃごちゃしたエビデンスを知らなくても大丈夫。高すぎる血圧はあまりよくないのは直感的に分かりますね。低すぎるのもよくはありませんが・・・
高血圧は脳梗塞や脳出血による脳血管性認知症だけで無く、アルツハイマー型認知症対策としても不利になるようです。
降圧薬の種類でも予防効果に差があるようですが、はっきりとした「証拠」のレベルではないのです。それでも、ちょっとでも、可能性のある方に寄せたいですね・・・■
禁煙: 喫煙は多数の疫学研究で全てのタイプの認知症リスクを上昇させることが確立しています。喫煙者は非喫煙者に比べアルツハイマー型認知症リスクがおよそ1.5~1.8倍と報告され、また喫煙が脳卒中・動脈硬化を促進することで血管性認知症のリスク因子でもあります。こうしたエビデンスから、WHOや各国ガイドラインは禁煙支援介入(認知行動療法やニコチン代替療法・薬物療法など)を強く推奨しています。禁煙により将来的な認知症発症リスクを低減できる可能性が高く、他の健康利益も考慮すれば喫煙者には禁煙が必須の対策です。長期喫煙者でも禁煙によって数年後にはリスクが非喫煙者に近づくという報告もあり、遅すぎることはありません。
■禁煙・・・当然と言えば当然ですが・・・禁煙は辛いのですよね
禁煙がどうしても出来ない人や、納得のいかない人は、仕方ないので、たばこは吸いながら他の項目で頑張りましょう。■
少なくとも過度の飲酒を避ける(禁酒のほうが良いだろう): アルコール摂取と認知症リスクの関係は一部で議論がありますが、明らかに有害なのは過度の飲酒です。長期にわたる大量飲酒はアルコール性認知症を引き起こすだけでなく、脳萎縮を促しアルツハイマー型認知症のリスクも高めます。一方、適度な飲酒習慣については観察研究で軽度保護的な結果と、逆に少量でもリスクとの関連を示す結果が混在しています。2020年Lancet認知症予防委員会は「1日あたり酒量21単位以上の大量飲酒」を新たなリスク因子に追加しており、飲酒量の節制が呼びかけられています。WHOガイドラインでも、特にアルコール使用障害のある人への介入(カウンセリングや断酒プログラム)による有害飲酒是正を推奨しています。したがって過剰な飲酒を避ける(男性で1日あたりエタノール20g程度以下、女性はそれ以下)ことが認知症予防の観点でも重要です。適量の飲酒可否についてはなお議論があるものの、少なくとも「飲めば飲むほど良い」というものではなく、むしろ飲酒量は少ないほど認知症リスクは低い可能性を示すデータも出てきています。アルコール依存症からの回復により認知機能の一部が改善するケースもあり、アルコール多飲者には減酒・断酒を強く勧奨します。
■酒の飲み過ぎが脳に悪いっていうのは、合点がいきますね
ちょっとなら良いのか?という点についてさえ、「適量は無い。飲酒は毒」というエビデンスも増えてきています。
人生観とどう折り合いを付けますか?
あなた自身の問題です。人生の醍醐味でしょうか・・・■
ちなみに、エタノール20g(1ドリンク)程度とは
ビール(5%) … 500mL(中瓶1本)
日本酒(15%) … 約180mL(1合)
焼酎(25%) … 約100mL
ワイン(12%) … 約200mL(グラス2杯弱)
ウイスキー(40%) … 約60mL(シングル2杯弱)
まあ、こんなの、飲んだうちに入りませんね・・・・これで途中でやめられるなら苦労はいりません(実感)。
本気で認知症が嫌なら飲まないことでしょう。
糖尿病の管理: 糖尿病(特に中年期発症の2型糖尿病)はアルツハイマー病発症リスクを約1.5倍に高めることが分かっています。インスリン抵抗性や高血糖による脳内炎症・血管障害が関与すると考えられます。したがって糖尿病予防・血糖コントロールも認知症対策の一部です。血糖管理が認知症発症抑制につながるかを検証したRCTはいくつかありますが、必ずしも明確な効果は示されていません。例えばACCORD-MIND試験では、糖尿病患者における血糖強化治療(HbA1c <6.0%目標)は標準治療と比べて認知機能低下速度に有意差を示せませんでした。しかし血糖管理による細小血管障害予防や脳卒中予防効果は明らかであり、それを通じて血管性認知障害の防止に寄与すると考えられます。さらに最近の疫学研究ではメトホルミンなど一部の血糖降下薬に認知症発症リスク低下との関連が報告され、現在ランダム化試験でメトホルミンの予防効果検証が進行中です(例えば米国ADNIメトホルミン試験)。現時点では適切な食事療法・運動・必要に応じた薬物療法により糖尿病を良好にコントロールすることが推奨されます。これにより心血管疾患予防とともに認知症のリスク要因管理につながります。特に糖尿病に伴う高血圧・脂質異常など複合リスクへの包括的対応が重要です。
■アルツハイマー型認知症は「脳の糖尿病」とも言われます。糖尿病は放置してはいけません。メトホルミンはアンチエイジングや癌予防など多様な方面で注目される古典的ですが極めて有望な薬剤です。当院でも、一般的な第一選択薬です。■
ちなみに・・・
巷で話題の、GLP‑1受容体作動薬(GLP‑1RA)と認知症発症リスクの関係については、近年注目が高まっています。
WEF(世界経済フォーラム)の「Top 10 Emerging Technologies of 2025(2025年 新興テクノロジートップ10)」リストには、「GLP‑1 薬による神経変性疾患への応用」 が含まれています。これはチルゼパチド(マンジャロ®/Mounjaro)などのGLP‑1作動薬が、アルツハイマー病やパーキンソン病において神経保護の可能性を示していることを踏まえた選出です。
2025年にJAMA Network Openに発表された後ろ向き大規模コホート研究では、セマグルチドやチルゼパチドなどのGLP‑1RAを使用している群において、認知症の発症リスクが37%低下することが報告されました。ただし、この結果は観察研究によるものであり、因果関係の証明には至っていません。体重減少や血糖コントロールの改善といった交絡因子が影響している可能性も指摘されています。
基礎研究や動物実験の領域では、GLP‑1RAが脳内に移行し、炎症抑制、アミロイドβ蓄積の減少、ミトコンドリア保護といった作用を示すことが明らかになっています。アルツハイマー病やパーキンソン病のモデル動物においては、神経保護効果が報告されており、病態修飾薬としての可能性が示唆されています。
一方、臨床試験の段階では、認知症患者を対象とした本格的なランダム化比較試験(RCT)はまだ完了していません。現時点では、小規模なパイロット試験や肥満・糖尿病患者を対象とした研究の副次解析において、認知機能改善の傾向が示される報告がありますが、確定的な結論には至っていません。
こうした科学的エビデンスの現状を踏まえ、主要な認知症治療ガイドライン(日本・米国・欧州)においても、GLP‑1RAは認知症治療薬として推奨されていません。現時点では糖尿病や肥満の治療薬としての適応が中心であり、認知症予防・治療への応用は研究段階にとどまっています。
■痩せる薬剤として有名なマンジャロ・オゼンピックなどももしかしたら、糖尿病から独立した認知症対策になるかもしれない
のですが、十分な科学的根拠にはなっていません。糖尿病の方は、積極的に治療方法の選択肢に入れるのが良いでしょう。■
脂質異常症の治療: 血中コレステロールと認知症の関連も議論点ですが、中年期における高コレステロールはアルツハイマー病発症率の上昇と関連するとの研究があります。一方、後年期(65歳以降)では総コレステロール低下が認知症前駆と紛らわしい場合もあり、単純な関連付けは難しいです。2024年のLancet委員会では「高LDLコレステロール」を新規の潜在的リスク因子に加えました。これは脂質管理が認知症予防に重要である可能性を示唆します。ただし、スタチン治療(HMG-CoA還元酵素阻害薬)に関しては、大規模RCTのメタ分析で「高齢者に対するスタチン投与は認知症発症や認知機能低下を減らさなかった」との結果が得られています。例えば26,000人以上を含むCochraneレビューでは、平均3-5年追跡でスタチン群とプラセボ群の認知症発症率は差がなく(OR≒1.0)、認知テストスコアにも有意差がみられませんでした。
したがって脂質異常の是正自体は脳血管障害予防に重要なため推奨されるものの、スタチン等を純粋に「認知症予防薬」として健常高齢者に投与することは支持されていません。むしろ高齢期に過度にコレステロールを下げすぎることの是非も議論があるため、心血管リスクの高い人で適切に脂質管理するという現行指針に従う形になります。
2024年Lancet報告の「高LDL」がリスク因子との指摘は、中年期から脂質代謝を良好に保つことが脳血管の健康維持につながり、ひいては認知症予防に寄与するという文脈と考えられます。したがって糖尿病や高血圧と並んで脂質異常も中年期までに是正しておくことが推奨されます(心血管疾患予防の観点からも意義が大きい)。
■高血圧や糖尿病と同じです。病的な異常値に治療の効果はありそうですが、異常値が無いのに薬を飲んでも無駄になるかも知れません・・・でも、異常値もでるし、正常のこともあるし、という人は迷いますね・・・血管全般・動脈硬化の評価次第ということになるのでしょう。主治医と相談です■
難聴への対処(補聴器装用等): 中年期の難聴は近年特に注目される認知症リスク因子です。聴覚低下により脳への刺激が減少し認知予備能が低下すること、社会的孤立や抑うつにつながること等が機序と考えられます。観察研究では中年期に補聴器で難聴を補えば認知症リスクが低減するとの結果もあり、2020年のLancet委員会報告では難聴への介入を最も効果の大きい予防策の一つとして位置付けました。
実際、難聴を有する高齢者に補聴器を装用させた群と装用しない群を比較したコホート研究では、補聴器使用者で認知症発症率が有意に低かった例も報告されています。さらに近年、ACHIEVE試験(米国におけるランダム化試験)が発表され、難聴介入のエビデンスが強化されました。この試験では平均76歳で未治療の難聴を有する高齢者977人を対象に、補聴器とカウンセリングによる聴覚介入群と健康教育のみの対照群に分け、3年間の認知機能変化を比較しました。主要評価項目は全般認知機能(複数テスト合成得点)の3年変化でしたが、全対象では補聴器群と対照群で認知機能低下量に有意差が認められませんでした。しかしベースラインで心血管リスクが高く認知機能もやや低めのサブグループ(ARICコホート由来)では、補聴器介入により3年間の認知低下が有意に緩やかでした。具体的には高リスク群で補聴器群の認知スコア低下は対照群の約半分(認知低下速度が48%減)に抑えられたとの報告です。この結果は「難聴のある高齢者では、特に認知症リスクの高い人において補聴器装用が認知機能低下の抑制に役立つ」可能性を示しています。補聴器自体による有害事象はなく、安全に実施できました。以上から、難聴の早期発見と補聴器等での補正は重要な介入策です。中年期(40~60代)の難聴を放置するとその後の認知症発症割合への影響が大きいことがモデル研究でも示唆されており、積極的に耳鼻科受診・補聴器フィッティングを行うことが推奨されます。
■企業の健診では聴力を重視する健保団体もありますが、世田谷区の健診には聴力健診がありません。まずは近くの耳鼻科を受診して現状を評価してください。
補聴器で防げる認知症がかなりありそうです。鬱陶しいとか面倒だとか、言っていられません■
社会的交流と精神活動: 社会的に活動的であること、趣味や知的活動に積極的であることも、認知症リスクを下げる関連が指摘されています。高齢期に社会的孤立や抑うつに陥ることは認知症発症の独立リスク因子であり、逆に豊かな社会交流・精神活動は脳に認知予備力を築くと考えられます。例えば教育年数が少ないことが認知症リスクを上げる確実な因子として知られますが、成人後においても読書、計算、囲碁・チェス等のゲーム、楽器演奏、サークル参加などの習慣がある人は、そうでない人に比べ認知症になりにくい傾向が様々なコホートで示されています。これらはあくまで観察的な相関ですが、介入研究として認知トレーニング(パズル、記憶課題、PCを用いた脳トレゲームなど)を行った試験もいくつかあります。大規模RCT「ACTIVE試験」では、高齢者に記憶・推論・速度の各トレーニングを数週間提供した結果、訓練した認知領域の成績は向上し、介入10年後でも日常機能の一部にわずかながら良好な影響が残存していました。しかし認知症発症率自体には差がなかったと報告されています(介入群73.6人/1000人年 vs 対照群73.5人/1000人年)。2018年のレビューでも、「認知トレーニングは訓練した課題のパフォーマンスを改善するが、他の未訓練領域へ広汎な波及効果や認知症予防効果のエビデンスは不十分」と結論付けられました。一方、WHOガイドラインは「限定的ながら肯定的な知見」をもとに認知トレーニングの実施を条件付きで推奨しています。つまり確実性は高くないものの、脳への刺激活動は有用かもしれないという位置づけです。よって生涯にわたって知的好奇心を保ち、社会的交流の機会を積極的に持つことは、心身の健康維持に有益であり認知症予防の観点からも推奨されます。具体策としては、高齢者向け教養講座への参加、ボランティア活動、友人知人との会食・談話、囲碁将棋やカードゲームのクラブ活動、日記執筆等なんでも構いません。ポイントは「孤立せず頭と身体を使い続けるライフスタイル」であり、これ自体に副作用はなくQOLを高めるため、ぜひ奨励されます。
■出来るだけ独りでいないこと、
でも、孤立・孤独が簡単にどうにかできるわけでも無い。現代の社会の問題の凝縮点です
ちなみに私は独りでいるのが大好きです、友達もあまりいません・・・社会的に活動的であれとか、こんな事言われても困ります・・・私の場合には社会の問題では無いような気がします。
仕方がないことは考えないことです。
しかし、本当に仕方が無いのか?と問い直す視点は重要です■
その他の生活習慣: 上記以外にも、
睡眠障害の治療(例: 睡眠時無呼吸症候群のCPAP療法)は認知機能の改善につながる報告が多数あります。重度の睡眠時無呼吸は日中の認知機能低下やアルツハイマー型認知症のリスク因子とされ、適切なCPAP治療で注意力や記憶が改善したとの研究があります。そもそも重度の睡眠時無呼吸症候群は、最大の動脈硬化性疾患の危険因子でもあり、高血圧・糖尿病・脂質異常症と同様に介入が望ましい。
■睡眠時無呼吸症候群の治療は非常に需要です。当院ではCPAPの早期積極導入を勧めています■
また食事習慣では地中海食など健康的食習慣が推奨されます。後述します。
さらに頭部外傷の防止も重要です。若年~中年期に重度の頭部外傷(外傷後意識喪失など)を経験すると、アルツハイマー病や慢性外傷性脳症につながるリスクがあります。従って交通事故防止や安全対策(ヘルメット着用など)が公衆衛生上望まれます。
■ボクシング・ラグビー・アメフト、その他、明らかに頭部外傷を前提としたスポーツは、認知症発症の高リスクであることを十分意識してください 脳神経外科医としてこういうスポーツは正直嫌いです・・悲惨な方を沢山診療しましたし、今元気な方も、頭部外傷が蓄積すると、いずれ認知症のリスクになります■
大気汚染の曝露低減も新たな公衆衛生課題です。近年、大気中の微小粒子状物質への慢性曝露が認知症リスクを上げるとのエビデンスが蓄積し、社会的な汚染対策が求められています(個人レベルでは空気清浄機の利用やマスク着用など)。
■大気汚染は個人レベルではどうしようも無いです。 室内のガスコンロ調理や換気不足に起因する、二酸化炭素濃度、一酸化炭素濃度と認知症には関連を示す十分なエビデンスはありません。しかし個人的には要注意だなって思っています。窓を開けたとしても害はないので(日本では)、換気には注意してください■
うつ病の予防・治療も見逃せません。中年期の抑うつは後年の認知症と関連し、社会的孤立などを介して悪循環に陥りえます。適切な精神科治療やカウンセリングでうつ症状を改善することは、その人の生活機能を上げ認知症リスクを二次的に減らすと考えられます(ただし抑うつ治療が直接に長期認知症発症率を下げる確証はまだありません)。
以上のように、多面的な生活習慣改善とリスク因子制御こそが最も確実性の高い認知症対策といえます。
実際、Lancet委員会 (2020)は 教育、難聴、高血圧、肥満、喫煙、うつ、運動不足、糖尿病、社会的孤立、過度飲酒、頭部外傷、大気汚染という12の修正可能リスク要因を挙げ、これらを生涯にわたり最適に管理できれば全認知症患者の約40%が予防可能と試算しました。
2024年にはさらに視力障害と高コレステロールが加えられ14因子で約45%が予防可能との最新報告です。
■この数字は理想的介入ができた場合の概算ですが、裏を返せば半数近い認知症ケースは生活習慣改善で遅らせたり防げる可能性があるという希望を示しています■
2. 有望だがエビデンスが十分でない認知症対策
このカテゴリには、理論的背景や初期研究から効果が期待されるものの、大規模臨床試験で明確な有効性が示されたとは言い難い対策を含めます。現時点では公式には「推奨」には至らないものの、予防効果の可能性があり今後の研究結果次第では標準になるかもしれないアプローチです。
認知トレーニングと知的刺激: 生涯にわたる知的活動の維持が認知症を遅らせるとの仮説は根強く、観察研究でも肯定的データが多いです。実際、複数の活動(読書や趣味、計算練習など)を組み合わせた認知刺激プログラムが高齢者の認知機能を若干改善したとのランダム化試験も散見されます。しかし認知症発症を有意に減らす効果はまだ示されていません。WHOは「エビデンスは限定的だがリスクがないので、認知トレーニングを検討してよい」と勧告しています。ゆえに「やらないよりはやった方が良いかもしれない」程度の位置づけですが、有望性はあります。特にデジタル技術の発達により、個人に合わせた高度な脳トレゲームやAIを用いた知能強化訓練など新手法も試行されています。例えばスピード処理訓練に特化した一種の脳トレ(ダブルデシジョンというPCゲーム)は、「ACTIVE試験」で10年後の認知症発症リスクを29%低減したとの探索解析結果が報じられ注目を集めました。これは事後分析であり確定ではありませんが、特定の認知トレーニングに予防効果がある可能性も否定できません。今後さらなる大規模試験が必要です。
■こういうのが好きな方は、やって損はないのでしょうが、確実なのは、机の上での脳トレよりも、空の下での身体運動なのです■
ソーシャルロボット・対話AIの活用: 社会的交流の欠如を補うため、ペットロボットや会話AIが高齢者の孤独軽減に寄与できると期待されています。まだ認知症発症抑制のデータはありませんが、介護施設等でロボットと触れ合った高齢者は情緒が安定し活動性が上がるとの報告があります。人手不足を補い高齢者に継続刺激を与える技術として開発が進んでおり、将来的に有効性が実証されれば新たな予防プログラムになりうるでしょう。
■社会的交流と精神活動が非常に大事です、と、「確実に有効と考えられる認知症対策」で上述しましたが、 AIやロボットが、その点において、どこまで人間の代わりとして役立てるか?ということですね■
特定の栄養素サプリメント: ビタミンDやオメガ3脂肪酸(魚油)などは観察研究でレベルの高い血中濃度が認知症リスク低下と関連づけられ、一時注目を浴びました。例えば血中ビタミンDが低い人はAD発症率が高いとのコホート研究があり、ビタミンD補充が予防になるのではと考えられました。しかしランダム化試験(VITAL試験の認知症サブ解析など)ではビタミンD服用群とプラセボ群で認知機能低下率に差が出ませんでした。
オメガ3製剤(EPA/DHA)の大規模RCT(例えばVITAL-Ω3、AREDS2二次解析)も認知機能低下抑制効果を示せず、現時点で「サプリで認知症予防」は支持されません。
ただしω3に関しては食事由来摂取で効果が出ている点が興味深く、食品から摂る形が重要なのか議論があります。
その他ポリフェノール(緑茶のカテキン、ブドウのレスベラトロール等)、クルクミン(ウコン成分)、ビタミンCなど抗酸化サプリも盛んに研究されましたが、有効性を示す決定打はありません。これらは「有望だが現状ではデータ不足」と位置づけられ、基本的にWHO等は栄養欠乏がない限りサプリ摂取は推奨しない姿勢です。
もっとも、重篤な欠乏症(例: ビタミンB12欠乏による認知症状)は補充で改善するため、臨床的には血液検査で栄養評価し必要な人にのみ補充するのがよいでしょう。当診療所でも初診時に検査を行います。
また葉酸・B12・B6の高用量投与で血中ホモシステインを下げ、認知症予防を試みた研究群もあります。たとえばSmithらの試験ではMCI患者でビタミンB群が脳萎縮速度を30%減少させましたが、同時に認知機能差は軽微でした。メタ分析(2020年, Systematic Reviews誌)でも「健常者へのビタミンBサプリは認知機能低下を防がない」との結論です。従ってビタミンBサプリも一般には勧められません。今後、より若年からの長期介入や特定遺伝背景集団での効果など検討が必要です。
一方でMIND食に見られるようにブルーベリーやナッツ等食品でポリフェノールや不飽和脂肪酸を摂ることは総合的には良い習慣なので、薬剤でなく食事として摂取するよう指導するのが現実的です。
■私なりのお勧めとしては、
「全く魚を食べない人は、オメガ3製剤(EPA/DHA)ぐらい摂っても良いかもしれません。ビタミンDは、骨粗鬆症の予防や免疫機能の維持などの目的で摂るのも良いかもしれません。いずれも血中濃度測定が出来ますのでまずは測ってみると良いでしょう。」という感じです。■
「アルコール多飲者」は認知症に直接関連しない場合もあるのですが、すでに述べた通り、認知症の最大の危険因子の一つです。
その機序として、栄養障害の関与も大きいため、 飲酒量・飲酒頻度が多い人は、かなり積極的に「治療」として栄養素の補充が望ましいと言えます。
飲酒量や頻度が多い人では、アルコールそのものの代謝や、栄養吸収・貯蔵・排泄への影響により、多くのビタミンやミネラルが欠乏しやすくなります。とくに肝機能障害を伴う場合は、欠乏が顕著になります。
まず最も重要なのはビタミンB1(チアミン)です。アルコールはその吸収や活性化を阻害し、また代謝を促進するため、慢性的に不足します。欠乏すると脚気や末梢神経障害に加え、重篤な場合にはウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群を引き起こします。そのため、アルコール多飲者に点滴や糖質投与を行う際には、必ず糖より先にビタミンB1を補給することが原則とされています。
ビタミンB群全般も欠乏しやすく、B6(ピリドキシン)、B12、葉酸の不足は、貧血や神経障害の原因になります。葉酸とB12の欠乏は巨赤芽球性貧血を生じ、B6の不足は皮膚炎や末梢神経障害を伴うことがあります。また、トリプトファンからの合成が抑制されることでナイアシン(B3)が不足し、ペラグラ(皮膚炎、下痢、認知障害)を呈することもあります。
認知症に直接関係しにくいのですが、ビタミンCも摂取不足や肝代謝低下により減少しやすく、倦怠感、歯肉出血、創傷治癒の遅れなどが見られます。
脂溶性ビタミンでは、肝での貯蔵や代謝が障害されるため、A、D、E、Kが欠乏しやすくなります。ビタミンAの不足は夜盲症や皮膚乾燥を、Dの不足は骨軟化症や筋力低下を、Kの不足は凝固障害による出血傾向を引き起こします。
ミネラルでは、マグネシウム欠乏が最も頻度が高く、アルコールによる尿中排泄の増加と摂取不足が重なって起こります。不整脈、筋痙攣、意識障害を招き、低カリウム血症を助長します。亜鉛も欠乏しやすく、味覚障害、皮膚炎、免疫低下、創傷治癒の遅延などを生じます。さらに、カルシウムはビタミンDやマグネシウムの不足に伴って低下し、骨粗鬆症やテタニーを引き起こすことがあります。セレンやリンも不足しやすく、前者は心筋障害や免疫低下を、後者は再栄養時の筋無力や呼吸不全を生じうるため注意が必要です。鉄欠乏も少なくなく、鉄欠乏性貧血を呈することがあります。
このように、アルコール多飲者では複数の栄養素が同時に欠乏していることが多いため、ビタミンB群(特にB1、B6、B12、葉酸)とマグネシウム、亜鉛を中心に補うことが基本です。肝障害を伴う場合は脂溶性ビタミン(A、D、E、K)も考慮します。栄養を再開する際には、ビタミンB1、リン、マグネシウムの血中濃度をモニタリングしながら補給することが重要で、これを怠ると再栄養症候群を起こす危険があります。
まとめると、アルコール多飲者における栄養欠乏は、単一のビタミンではなく、代謝経路全体に関わる多面的な問題であり、治療と予防のいずれにおいても、包括的な栄養補給とモニタリングが不可欠です。
■アルコール多飲者の一番の問題は、おそらく、自分自身でそれを認められないことでしょう。向き合うことが出来ると、その瞬間から改善が始まります。■
抗炎症・免疫調節療法: 認知症、とりわけアルツハイマー病では脳内の慢性炎症が関与するため、抗炎症薬や免疫調節薬の予防効果が仮説としてありました。例えばNSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)常用者はADが少ないとの疫学から、NSAIDsを予防投与する試験(ADAPT)が行われました。しかし結果はNaproxen群・Celecoxib群ともプラセボ群に比べAD発症を減らさず、むしろ一部解析で長期的に認知症リスク増の可能性さえ示唆されました。従ってNSAIDs長期投与による認知症予防は否定され、現在はむやみに痛み止めを飲むことは勧められません。また慢性炎症を抑える他の手法として、コルチコステロイドや抗TNFα抗体なども試行的に研究されましたが、副作用の問題もあり実用化はされていません。近年では歯周炎の治療(抗菌療法)や腸内細菌叢の改善(プロバイオティクス)が炎症低減を通じて脳に良い影響を及ぼすか調べられていますが、エビデンスは初期段階です。
血管拡張・代謝改善薬: 脳循環・代謝改善を目的に、かつて日本で使われたシロスタゾール(抗血小板薬)やサイクロデキストリン、カルニチンなどが予防に効くか検討されています。シロスタゾールは脳卒中既往の血管性認知症で認知機能低下抑制効果を示した小規模RCTがあり(CASA試験)、現在ADやMCIでの多施設試験が進行中です。有望ではありますが結論はまだです。糖尿病薬メトホルミンはインスリン感受性改善を介し抗老化作用があるとの観点からコホート研究で認知症発症低減と関連報告もあり、AD予防RCT (METFINGERなど)が開始されています。さらに近年糖尿病治療薬のGLP-1作動薬(リラグルチド、セマグルチド等)が神経保護作用を示す前臨床データからADへの適応研究が増えています。リラグルチドをAD患者に投与したPhase2試験結果は2022年Lancetに報告されましたが、主要アウトカムで有意差なく今後より長期・早期への検討が必要とされました。一方セマグルチド(肥満治療にも用いる週1注射薬)はPhase3(EVOKE試験)が進行中です。これら糖代謝系薬は比較的安全であり、認知症予防への転用が大いに注目されています。いずれも「理論的に有望だが現状証拠不十分」の代表例です。
ホルモン補充療法(HRT): 閉経後女性でエストロゲン補充が認知症予防になるとの説がかつてありましたが、大規模RCTで否定されました。WHIMS試験(女性ホルモン補充の認知症影響を検証)は、65歳以上女性にエストロゲン+プロゲスチン併用療法を行った群でプラセボ群の2倍の発症率で「むしろ認知症リスクが増加」する結果となりました。具体的に、HRT群で年間1万人あたり45件 vs プラセボ群22件の認知症発症(HR 2.05, p=0.01)と報告されています。単独エストロゲン療法(E-alone)でも有意差なく防御効果は確認できませんでした。従ってホルモン補充で認知症を防ぐという考えは現在否定され、高齢期のHRTはむしろ有害と言えます。ただし近年「閉経周辺期から早期にHRT開始すればリスクを下げる可能性が残る」との再解析もあり、議論は完全には終わっていません。現状では認知症目的にHRTを行うのは推奨されず、更年期症状緩和目的に最小量を短期間用いる原則です。
その他先端研究: 予防的ワクチン開発も将来的課題です。アルツハイマー病ではアミロイドやタウに対するワクチン(免疫療法)が試みられました。初のアミロイドワクチン(AN1792)は脳炎副作用で中止されましたが、その後も改良型が研究中です。いつか中年期にワクチン接種し老年期の認知症を防ぐ時代が来るかもしれません。加えて遺伝子治療(家族性ADの原因遺伝子編集など)も萌芽的段階です。再生医療ではiPS細胞から作った神経を移植しシナプスネットワークを補う研究などもありますが、非常に先の話です。非侵襲的脳刺激(経頭蓋直流刺激や磁気刺激)による認知機能改善も一部報告がありますが、日常診療レベルには至っていません。例えば経頭蓋超音波刺激でアミロイド除去を促す試みなどユニークな研究が行われています。これらは将来カテゴリ1になりうる潜在力がありますが、現状はエビデンス不確実な試験的段階と言えます。
総じて、この「有望だがエビデンスが十分でない認知症対策」カテゴリの対策は「やってみる価値はあるが効果は明確ではない」ものです。中には有害事象リスクが小さいもの(脳トレ等)もあり、個人の希望で取り組むのは問題ありません。しかし過度な期待は禁物で、最初のカテゴリ「確実に有効と考えられる認知症対策」の確立策を差し置いてこうした不確実策ばかり行っても十分な予防とはならない点に留意が必要です。
以下は順次作成予定です。
3. かつては有効と喧伝されたものの、現在ほぼ否定されている認知症対策